はじめに
交通事故には、被害者の方が亡くなるという重大な結果が発生する場合があります。近年の大まかな傾向としては減少傾向であるものの、年間で3000人ほどの方が交通事故で死亡しています。
被害者が死亡した場合、遺族は加害者に対して慰謝料を請求することができますが、そのほかにも請求することができる損害賠償金があります。
交通事故で被害者が死亡した場合の慰謝料の相場と慰謝料以外に請求できる損害賠償金について説明していきます。
慰謝料だけではない
まず、交通事故死された方の遺族が請求できるのは慰謝料だけではないということを述べておきます。交通事故、特に死亡事故の場合、慰謝料ということに着目されがちですが、逸失利益の方が大きくなる場合もよくあります。
逸失利益とは、もし交通事故にあわずに生存していたら得られたはずの収入のことです。詳しくはのちに述べますが、事故が原因で得られなくなったものですから、加害者に対して賠償請求していくことが出来ます。
さらには、葬祭料も請求することが出来ます。
その他にも、治療期間を経て死亡された場合は、治療費、入院付添費、休業損害などを請求していくことが出来ます。
死亡慰謝料について
慰謝料とは、その交通事故によって受けた精神的苦痛に対する賠償です。
死亡した被害者には、相当な精神的苦痛が存在したものと考えられますので、被害者本人の慰謝料請求権が認められています。
そして、その慰謝料請求権は相続人に相続されますので、相続人である遺族は加害者に対して被害者本人の慰謝料を請求することができるのです。
また、被害者本人の慰謝料だけでなく、遺族固有の慰謝料も認められています。
近しい関係の人を交通事故で亡くしたという遺族にとっても大きな精神的苦痛に対して慰謝料が支払われます。
したがって、父母・配偶者・子等の遺族については、その者固有の慰謝料が認められています。
死亡慰謝料の金額について
慰謝料を算定するにあたっての基準には自賠責基準・任意保険基準・裁判所(弁護士)基準の3つがあります。
自賠責基準の場合、死亡した被害者本人の慰謝料は350万円と定められています。
それに加えて、遺族の慰謝料は、請求する権利のある者が被害者の父母・配偶者・子に限られ、請求者が1名の場合は550万円、2名の時は650万円、3名以上の時は750万円とされています。
任意保険基準は、各保険会社独自の基準であり加害者の入っていた任意保険会社次第で金額が異なります。一般的には、自賠責基準よりは多いものの、後述の裁判所基準より低額となります。
裁判所基準の場合は、死亡慰謝料は被害者本人の慰謝料と遺族の慰謝料を合算した金額として取り扱われています。合算した金額で、死亡した被害者が一家の支柱(例:主に生計を支えていた父親)の場合は2700万円~3100万円、一家の支柱に準ずる場合(例:父親より収入は低かったものの正社員として相応な収入を得ていた母親)は2400万円~2700万円、その他の場合は2000万円~2500万円の範囲内で決定するとされています。
この慰謝料は、事故の態様が極めて悪質(例:飲酒運転、ひき逃げなど)な場合や、被害者が妊娠しており胎児も一緒に死亡してしまった場合には増額されることがあります。
逸失利益について
上で述べたように、逸失利益とは、被害者が生きていていれば得られるはずであった収入のことをいいます。
逸失利益の計算方法は、基本的に、被害者の1年あたりの収入に稼働可能期間(原則は67歳までの期間)を掛けて算出します。
もっとも、被害者が生きていれば生活費が必要になりますが、死亡すれば生活費がかからなくなりますので、その分を基礎収入から差し引かなければなりません。かからなくなった生活費を差し引くことを生活費控除といい、その率を生活費控除率といいます。
生活費控除率にも一定の基準があり、一家の支柱で被扶養者1人の場合40%、2人以上の場合30%、女性(主婦、独身、幼児当含む)の場合30%、男性(独身、幼児等含む)の場合50%とされています。例えば独身女性の場合、基礎収入から30%を差し引いた金額をもとに逸失利益を計算していくことになります。もちろん、生活費控除率は事情により修正されることがあります。
また、生きていれば年々受け取っているはずの収入を、損害賠償金として支払いを受ける場合は一括して支払われることになりますので、その点も調整が必要となります。この調整には主にライプニッツ係数というものが使われます。
したがって、死亡事故における逸失利益は、以下の計算式によって算出されることになります。
死亡逸失利益 = 1年あたりの基礎収入 × (1-生活費控除率) × 稼働可能期間に対応するライプニッツ係数
その他の賠償請求
慰謝料と逸失利益のほかには、葬祭料を請求することができます。葬祭料とは、お寺に支払う戒名・読経料や葬儀社に支払う諸費用のことです。
これは、自賠責基準では、上限60万円と定められています。
ただし、この金額を超える場合でも、立証資料により社会通念上必要かつ妥当な実費が認められます。
また、病院に緊急搬送されて治療期間を経て死亡された場合には、交通事故でけがを負った場合と同様に、治療費、入院雑費、入院付添費、休業損害を請求していくことになります。
死亡事故の損害賠償は弁護士に依頼するべきか
死亡事故に限りませんが、加害者が任意保険に加入している場合、保険会社と交渉することになります。そうすると、遺族の方がご本人で交渉すると、交通事故に対する知識・経験はどうしても保険会社の担当者の方が上になり、保険会社のペースで話が進んでいくことになります。
また、ご自身で交渉される場合は、慰謝料の金額についても、裁判所(弁護士)基準よりは低い任意保険基準での解決となります。
そうなるのを避けるために、弁護士に依頼することが推奨されます。
弁護士に依頼することによって、遺族は示談交渉にまつわるさまざまな煩わしさから解放されます。大切なご家族を失い、遺族は精神的にダメージを受けていらっしゃると思いますが、それに加えて、慣れない示談交渉でのストレスを抱えてしまうことになります。しかし、法律の専門家である弁護士に依頼をすれば、示談交渉はすべて弁護士が行ってくれますので、遺族として本来専念すべきことに集中することができます。
また、弁護士が交渉を行うことによって慰謝料の増額が見込めます。
まとめ
死亡交通事故のような大きい事故は無いのが一番ですが、現実にはまだ相当数起こっています。そうである以上、結果の重大さに見合った適正な解決がなされるべきです。
被害者の方が亡くなられる重大な事故の場合は、ご遺族の方だけで判断されるのではなく、弁護士に相談されることをお勧めします。