はじめに
交通事故では頸椎捻挫、いわゆる「むち打ち」という怪我を負うことが多いです。車同士の接触で衝撃が車に乗っていた人に伝わると、重量のある頭を支えている頸椎に異常を引き起こすためです。
むち打ちは、それだけでは命に係わる負傷とはいえないものの、人によっては辛い症状が出ることもあり、なかなか治らないケースもあります。
このようなむち打ちの症状で、賠償金(示談金)を上げるポイントは、端的に言うと「弁護士に依頼すること」と「後遺障害等級の認定を受けること」です。
弁護士に依頼をすると、慰謝料の金額を決める際の基準が裁判所で使われる基準に準じることになるため、一般に増額が見込めます。また、治療を続けても症状が改善せず後遺障害等級の認定を受けると、後遺障害等級に応じた慰謝料と逸失利益を清遊することができるようになるため損害賠償額も大きく異なります。
以下では、むち打ち症状がある交通事故の負傷において、弁護士を依頼することと後遺障害等級の認定を受けることの重要性を解説していきます。
弁護士に依頼することによる慰謝料の増額
弁護士に交通事故での示談交渉を依頼すると、慰謝料について、裁判所の用いる基準に準じて請求を行い、示談をすることが可能です。そして、裁判所の用いる基準は、一般に保険会社が提案してくる慰謝料金額の基準よりも高額になっています。
慰謝料であれば、後述する後遺障害等級に対応する慰謝料だけでなく、入通院期間に対応する慰謝料(入通院慰謝料・傷害慰謝料などと呼ばれる)にも裁判所基準があって、自賠責保険や任意保険会社の基準よりも額が高額の基準となっていますので、怪我自体は治癒していて後遺障害はないという場合でも、弁護士に依頼することで慰謝料を増額することができます。
後遺障害等級の認定されるようなむち打ちはもちろん、後遺障害等級の認定に至らないむち打ちでも、弁護士に依頼して慰謝料を増額することが期待できるのがポイントの1つです。
むち打ちによる後遺障害等級の認定
(1)むち打ちの症状
むち打ちには様々な症状がありますが、主な症状としては、首、後頭部、肩や腕の痛み、肩こり、首や背中のこりや重さ、頭痛や吐き気、耳鳴り、全身の倦怠感、手足の麻痺やしびれ、握力などの筋力の低下、などといったものがあります。
衝撃を受けたのは首であっても、首以外にも様々な症状が出ることがあるのが特徴的です。
むち打ちの大半のケースは首の筋肉や靭帯などの損傷にとどまり、2~3ヶ月の治療を受ければ治癒するとされます。
しかし、手足にしびれが出る場合は、筋肉や靭帯などの異常だけではなく、神経に異常をきたしている可能性があることを意味します。
しびれが出た場合は、早期にMRI等の詳しい検査を受けて原因を特定することが重要です。しびれを自覚する時期も人によって様々で、頸椎椎間板ヘルニアのような器質的な損傷(MRI等で覚知できる身体の組織への損傷)が発生していれば事故直後から自覚するはずですが、事故直後は精神的な興奮状態のために自覚できず、落ち着いてから症状が出てくる場合も多いとされます。
いずれにせよ、交通事故後に異常を感じたら、その日か翌日に整形外科で診察を受けることが大切です。
ある程度の期間が経ってから受診しても、事故と症状との因果関係を疑われ、治療費、慰謝料の支払いを拒否されたり、適切な後遺障害認定を受けられなくなったりするおそれがあります。
(2)むち打ちによる実際の後遺障害等級
保険会社からの治療費打ち切りを拒否して治療を続けても、やがて、それ以上治療を続けても症状が良くも悪くもならない状態になります。このような状態に達することを「症状固定」といいます。
目安としては、交通事故の発生から6か月以上治療を継続し、治療によって症状に変化が見られなくなった場合です。
症状固定を迎えると、損害賠償の対象となる治療は終了し、あとは後遺障害等級の認定を受けて後遺障害が残った場合の損害の賠償を請求することになります。
むち打ちによる症状が該当しうる後遺障害等級は、14級か非該当がほとんどです。
12級が認定されることがないわけではありませんが、かなり限定的といえます。
14級と12級の違いは、14級が「局部に神経症状を残すもの」であるのに対して、12級は「局部に頑固な神経症状を残すもの」であることです。
14級の認定を受けるためには、問題となっている症状が交通事故によって生じたものであることが「医学的に説明可能」であること、つまり事故によってその症状が初めて出現し、症状固定まで一貫して症状が続き、将来においても回復が困難と説明できるものであることが必要です。
後遺障害等級の認定をする機関である損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所では、画像、事故態様、症状経過、治療状況や症状固定時の症状の程度などを総合的に考慮し、「14級」と「非該当」を区別しています。
他方、12級の認定を受けるためには、問題となっている症状が交通事故によって生じたものであることが「医学的に証明可能」であること、つまりレントゲン写真やCT、MRI検査などによってヘルニア等の器質的損傷が明確に確認でき、画像所見に合致した神経学的検査所見があることが必要です。
(3)後遺障害等級を獲得できる可能性
むち打ちで症状が残った場合、必ずしも後遺障害等級を獲得できるとは限りません。
むち打ちは、レントゲン写真やCT、MRI画像などを見ても異常がなく、治療中も症状が出たり消えたり、症状の内容にも変化があるようなケースが大部分であるといっても過言ではありません。
このようなケースでは、症状固定時の症状と事故との因果関係を医学的に説明・証明することができないと判断される傾向にあります。
しかし、頚椎や椎間板が変形している場合は、因果関係について医学的に証明することまではできなくとも、説明可能であると判断される可能性が高まります。
したがって、必ずとは言えませんが、後遺障害等級を獲得できる可能性も比較的高いといえるでしょう。
ただし、医学的に説明・証明が可能であるといえるためには、そのための資料が残っていなければなりません。事故後から症状固定まで一貫した症状が診断書やカルテに記載されていたり、頚椎や椎間板の異常をとらえたレントゲン写真やCT、MRI画像などが必要です。
まとめ
交通事故でむち打ちになると、なかなか治らず、辛い思いが続く方も多くいらっしゃいます。特に、しびれが出た場合は頑固な症状が続くケースが多いといえます。
そのようなつらい怪我に対し、相応な賠償金(示談金)を認めてもらうためのポイントを解説しました。
交通事故によるむち打ちでお困りの場合は、一度お気軽に弁護士にご相談されてみてはいかがでしょうか。