はじめに
自転車は環境にやさしい移動手段で、スポーツとして楽しむ人も増えていますが、車や歩行者などとの交通事故も頻繁に起こっています。警察庁が発表した「平成30年中の交通事故の発生状況」によると、全交通事故発生件数における自転車事故の割合は2割弱だそうです。
自転車事故でも、他の交通事故同様、「過失割合」が非常に重要ですが、四輪車同士の事故などと比べて注意するべき点があります。
交通事故の被害者になった場合に自分の過失割合が高くなると、過失相殺により、加害者に対して請求できる治療費や慰謝料といった賠償金の金額が減額されてしまいます。特に自転車運転中に四輪自動車やバイクとの事故に遭ったときは、怪我の程度が大きくなりやすく、過失割合が自分に不利になったときに過失相殺による影響が大きくなりやすいので注意が必要です。
過失割合とは
今回は、自転車事故の過失割合について述べていきますが、前提となる「過失割合」の意味について、簡単に振り返っておきます。
交通事故の過失割合とは、発生した交通事故に対する不注意(過失)の割合のことです。加害者と被害者で「90:10」などと表現されます。
交通事故の損害賠償では、事故当事者それぞれの過失割合を定め、被害者の過失割合の分については賠償金から減額して賠償金の額を決めるのです。このような減額調整のことを「過失相殺」と言います。
過失割合を決める基準となるのは、過去の裁判例です。実際の事故と類似した過去の裁判例を基準として、実際の事故状況に応じて割合を修正しながら過失割合を決定して、最終的な賠償金の額を決めていきます。
自転車事故の過失割合を決めるポイント
自転車が当事者となる交通事故の場合、過失割合の数値はどのくらいになるのでしょうか?
自転車事故の過失割合を決めるときには、いくつかポイントとなる要素があります。
(1)事故の相手方の種類
事故の相手が四輪車やバイクの場合には、自転車は相対的に弱い立場となり、事故を避ける能力が低くなるとされるため、自転車の過失割合が下がります。
反対に相手が歩行者の場合、自転車が加害者となる可能性が高く、歩行者が弱い立場となるので自転車側の過失割合が比較的高くなります。
例えば、直線道路で右側通行をしていた自転車と対向車である四輪自動車が衝突した場合、自転車の過失が10、四輪車の過失が90となります。この場合、本来自転車は左側走行をしなければなりませんが、右側走行の場合でも、四輪車の前方に位置する自転車を認識するのは容易であるという理由で、四輪車の過失が重くなります。
(2)交差点か否か
交差点では、信号機が設置されている場合も多いですし、左側の車両が優先されたり当事者に徐行義務が課されたり、道路幅によって優先関係が発生したりなど、交差点以外の場所にはないさまざまなルールが適用されるので、特別な考慮が必要です。過失割合の基準も多くのパターンを想定して細かく設定されています。
例えば、信号機のない交差点で、自転車が狭い道を、四輪自動車が広い道を、それぞれ進んでいて出合い頭に事故を起こした場合、自転車の過失割合は30、四輪車は70とされます。逆に自転車が広い道の場合には、自転車が10、四輪車が90とされます。四輪車と自転車の事故なので、四輪車側の過失が重くなるのですが、交差点の通行においては広い道の側が優先されるので、その点が考慮されて過失割合が変わっています。
(3)信号機の有無・状態
信号機が設置されている地点での事故では信号の色も重要です。
信号機があれば、信号機による指示が絶対的な基準となるからです。信号無視をすると大幅に過失割合が上がります。
青信号の場合は直進してもよく、赤信号の場合には停止しなければならないことは知られていますが、黄色の場合にどうすべきか注意が必要です。
黄色は、原則停止しなければなりません。進んでも良いのは、急に止まると危険なので、進行せざるを得ないケースのみです。
黄色で進行して交通事故を起こすと、過失割合は高くなります。
例えば、信号機のある交差点で、四輪車が右折、自転車が直進して発生した交通事故で、自転車も四輪車も青信号で親友していた場合には、自転車が10、四輪車が90の過失割合ですが、自転車が黄、四輪車が青の場合では、自転車が40、四輪車が60と変わってきます。
(4)幹線道路か否か
自転車事故の相手が歩行者の場合、事故現場が幹線道路か住宅地かによっても過失割合が変わります。
幹線道路の場合には自転車の過失割合が下がりますが、住宅地や商業地の場合には歩行者の過失割合が下がります。住宅地や商業地は歩行者が多く、自転車としても歩行者がいることを想定した注意が必要だからです。
(5)事故の時間帯
自転車と四輪車やバイクの事故の場合、夜間なら自転車の過失割合が上がります。
夜間には四輪車やバイクのヘッドライトの影響で自転車から相手を発見しやすくなりますが、反対に四輪車やバイクからは自転車を発見しにくくなるからです。自転車の無灯火や整備不良で反射板が機能していない場合などは、さらに自転車の過失割合が重く修正されます。
(6)横断歩道上か否か
歩行者との交通事故の場合、事故現場が横断歩道上かどうか、問題となります。
横断歩道上の場合には歩行者が絶対的な保護を受けるので、歩行者が信号無視をしていない限り、歩行者の過失割合が0に近くなります。
スポーツタイプ(ロードバイク等)であることが影響するか
ロードバイク等のスポーツタイプの自転車は、時速20kmから50km程度の高速で走行することがあり、事故の際には大きな怪我をすることがあります。
四輪車など事故の相手側からは、高速度で不適切なブレーキ操作等の過失があったと主張されることもあり、一定程度の過失が認められることもありますが、現在のところロードバイクの特殊性よりも、道路形状、交通規制、双方の車両の種類、双方の進路、速度などの基本的な事情が重視されることが多いです。
もっとも、いわゆる「ピスト」タイプの自転車でのブレーキ装置不良を、自転車側の著しい過失としたものもありますので、個別の事情によっては過失割合の修正がなされます。
まとめ
自転車事故と一口で言っても様々なパターンがあり、例で取り上げた以外にも事故態様に応じて様々な過失割合があります。
事故にあって、過失割合で相手側の言っていることが納得できない場合には、過失割合の基準に適合しているかどうかを検討する必要があります。
そのような場合には、自分で判断するのではなく、ぜひ一度弁護士にご相談してください。